佐賀新聞
2016年01月30日 05時00分

 小中学校の教科書を発行する22社のうち12社が、検定中の教科書を教員ら延べ5100人余りに見せて意見を聞いていたことが分かった。検定中の教科書の情報を外部に漏らすことは禁じられている。教育の土台となる教科書の信頼性を揺るがす不祥事だ。さらに約4千人に謝礼まで渡していた。教科書の検定、採択に影響がなかったのか。徹底した事実究明が求められる。

 昨年秋、三省堂で発覚した不祥事は、業界内にまん延していたあしき慣習だった。各社は小学校の検定があった2009、13年度、中学校の検定があった10、14年度を中心に、個別に、または複数の教員を集めて検定中の教科書を見せていた。

 文科省が各社から受けた報告では、佐賀県内でも27人が検定中の教科書を見せられ、うち22人が謝礼を受けている。県教委が事実確認を急いでいる。

 教科書検定規則の実施細則では、干渉を防ぐために検定中の教科書を外部に見せることを禁じている。さらに文科省では過度な宣伝行為を慎むように求めている。業界内でも採択の関係者に謝礼を出すなどして採択を働きかけることを禁じる自主規制ルールがある。ルール無視の行為が横行していたことになる。

 さらに問題なのは、現金などの提供や接待、付け届けまでしていたことだ。三省堂は「編集手当」名目で5万円を渡していたほか、交通費や宿泊、懇親会費も負担していた。数研出版は、教科書採択の権限を持つ自治体の教育長や教育委員にまで歳暮や中元を贈っていた。

 教科書会社は「より良い教科書を作りたいとの思いからだった」などと弁明しているが、「採択目的ではないのか」との疑念を拭い去ることはできない。業界団体である教科書協会は、4月からの実施をめどに自主ルールの見直しを表明した。業界の自浄能力が問われる。

 謝礼を受け取った教員側の軽率さも否めない。公立小中学校の教科書採択は関係者による非公開審議で決められ、現場教員は参考資料を作成するなどの形で関わることがある。謝礼を受け取った教員が採択に関われば、公正さを欠く懸念がある。

 検定も一部の関係者が非公開で審査、認定する形になっており、密室性が高い。教科書検定制度には、教科書の著作・編集を民間に委ねることで創意工夫を取り入れ、国が検定することで適切な内容を担保する狙いがある。

 文科省は、今回の問題を受けて教科書会社が教員に教科書の内容を説明する機会を設けることを検討している。検定終了後を条件に、各自治体での教科書採択期間中に説明会を開催できるようにする。さらに再発防止策として、違反をした会社の教科書の検定作業を中断する措置も検討する。公平性や透明性を確保するために罰則を強化することも一つの手だてといえる。

 一方、教員から現場のニーズを踏まえた教科書を求める声もある。現場の意見を聞く公式の場を設けることで、水面下で意見を聞くあしき慣習を排除する。こうした運用面の工夫で、より良い教科書づくりのための環境を整備していきたい。(梶原幸司)