新しい市場に生まれ変わるのだから歓迎ムードかと思いきや、意外にも水産仲卸業者から大反対運動が起きているのだという。築地でいま、一体何が起きているのだろうか?

◆「マグロが切れない!」仲卸業者たちの悲鳴

 豊洲市場の入居予定者に不満が渦巻くのが施設の問題だ。

「仲卸のマグロ屋さんは店舗でマグロが切れないと悲鳴を上げる。床の荷重限度は低くて、今まで通り活魚を入れる水槽が置けない。何より市場が5階建ての立 体構造で、しかも道路がそれぞれの施設を分断するつくりなんて考えられません。こんな使い勝手が悪いうえに場所も不便ときたら、率先して豊洲に移転しよう なんて人は誰もいないんじゃないでしょうか」

 築地で長年商売を営む社長たちはこう打ち明ける。

「間口の狭い店舗と店舗の間に、築地にはない壁を築くというのです。仲卸の店は通路の両面にずらっと並びますが、一コマの幅は1.5mほど。複数のコマを借りているところならいいですが、そうでなければマグロを切る長い包丁を使うことができません」

 築地市場の仲卸エリアを覗くと、1mほどあるマグロを冷蔵庫の上に置いた長いまな板に載せ、3人がかりで切る光景が見られた。2コマ以上の店だから1m ほどのマグロ切り包丁を使ってもスペースに余裕があったが、これが一コマでなおかつ仕切り壁を築かれたらマグロを置くだけでいっぱいになってしまう。そん な状況に、大手の仲卸の社長は「豊洲に移転したら間違いなくマグロの取扱量は減る……」と肩を落とす。

◆ターレなどの荷重に床が耐えられない?

マグロの解体実演
(参考)マグロの解体の様子

 また、床には築地のような荷重もかけられない。仲卸業者が入る6街区の設計では、1㎡あたりの床にかけられる重さは700~800kg。建築エコノミストの森山至高氏によると、この数字は流通系の施設では極端に低いという。

「1㎡あたり1.5t程度が普通で、重いものを扱う施設なら3tというところもあります。フォークリフトなどで荷を運ぶ市場で床荷重1tを切るということはちょっと考えられません」

 自重1tのフォークリフトやターレ(荷を運ぶ乗り物)が600kgの荷を載せたら1.6tになり、それだけで床が耐えられる重さの2倍。活魚を入れる水 槽なら、縦横1m、深さ70㎝程度のサイズのものに水をいっぱいに満たしただけで限度に達してしまうのだ。この点を都に尋ねた。

「確かに荷を満載したターレが床いっぱいに並べば床がたわむなどするかもしれませんが、通常の市場の使い方でそういうことは起きないので……。必要な荷重を設計事務所に指示して作られた建物なので大丈夫だと考えています」(東京都中央卸売市場新市場整備部)

 だが森山氏は「床一面にターレが並ぶことはないと言いますが、それはどこの施設でも同じこと。それを前提に、1.5tや3tの設計にしているのです」と豊洲市場の設計のおかしさを指摘する。使い勝手の悪い市場に移ることを強いられた、仲卸業者たちの不満は根強い。

― [築地市場の豊洲移転]新たな大問題 ―

日刊SPA!