【クアラルンプール=吉田健一、児玉浩太郎】
北朝鮮大使館 北朝鮮の金正男(キムジョンナム)氏殺害事件の舞台となったマレーシア国内で、北朝鮮と断交すべきだとの声が強まっている。
(右:クアラルンプールの北朝鮮大使館)

 マレーシア警察の24日の発表を受け、25日付のマレーシア各紙は「正男氏はVXで毒死(毒殺の意)」(光明日報)などと1面で大きく報じ、自国の空港で化学兵器が使われたことへの衝撃を伝えた。

 マレーシア紙ニュー・ストレーツ・タイムズは25日、「ネット世論」の大半が北朝鮮に批判的と伝え、「断交すべきだ」とする国民の声を紹介した。

 マレーシアはこれまで、「マレーシア警察の捜査を信用できない」(カン・チョル大使)と批判する北朝鮮に対し、「うそや非難をぶちまけ続けている」(アニファ外相)と反論するだけでなく、20日には北朝鮮に駐在するマレーシア大使の本国召還を発表。
 24日にはザヒド副首相が「北朝鮮との外交関係の再評価」に踏み込んだ。
読売新聞 2/26(日) 

 ◇【金正男毒殺】マレーシア警察「北朝鮮書記官の逮捕状請求する」

 マレーシア警察が金正男(キム・ジョンナム)氏殺害の容疑者とされる駐マレーシア北朝鮮大使館のヒョン・グァンソン2等書記官の逮捕状を裁判所に請求するとみられる。

 マレーシア紙のザ・スターなどが25日に伝えたところによると、セランゴール州警察本部のアブドゥル・サマー本部長は取材陣に対し「ヒョン・グァンソン書記官が警察に自主的に出頭する適切な期限を過ぎれば警察が追加措置を取る」と明らかにした。

 サマー本部長はまた「われわれはまずヒョン・グァンソン書記官に召喚通知を出し、彼がもしこれに応じなければ裁判所に逮捕状を請求する」と述べた。

 ヒョン・グァンソン書記官は現在北朝鮮大使館内に身を隠しているものとみられる。外交官の身分のため現地警察は彼の身柄確保に困難を経験している。ヒョン・グァンソン書記官のほか別の北朝鮮国籍容疑者と指摘されたキム・ウクイル、リ・ジウ両容疑者もまだマレーシアにいるとされる。

 一方、この日マレーシアに居住する数十人の北朝鮮人が北朝鮮大使館に招集されたことが確認された。彼らは午後2時30分から約30分の間に大使館に入った。約2時間後の4時30分ごろに大使館から出てきた。
中央日報日本語版2/26(日) 10:32配信 

金正男

 ◇怒ったマレーシア政府「国民よ、不良国家・北朝鮮に行くな」

  金正男(キム・ジョンナム)暗殺事件に関連してマレーシア警察捜査が停滞状態に陥っている。事実上、北朝鮮が背後にいることが露呈したがこれを立証するには北朝鮮の協力を受けなければならないというジレンマのためだ。 

  今まで事件の容疑者として挙げられたのは10人。実際に暗殺を遂行した2人の女性ドアン・ティ・フオン(29、ベトナム)とシティ・アイシャ(25、インドネシア)を除く残り8人が北朝鮮国籍(イ・ジウは推定)だ。そのうち逮捕されたのはイ・ジョンチョル容疑者(47)だけで、7人を追っているところだ。 

  すでに平壌(ピョンヤン)に逃走した主犯4人も難題だが、マレーシアにいる3人の身柄確保も壁にぶつかっている。
 特にヒョン・グァンソン2等書記官(44)と高麗航空職員キム・ウギル容疑者(37)は治外法権地域である北朝鮮大使館に潜伏したものと推定される。 

  シンガポールのチャンネル、ニュース・アジアがマレーシア警察の消息筋を引用した報道によると、彼らは事件当日に暗殺現場にいた。
 ヒョン・グァンソン2等書記官が4人の容疑者を空港で見送る場面が空港の監視カメラ(CCTV)に映っているという。
 キム・ウギル容疑者も一緒にいた。外交官と国営航空社職員の彼らを調査してはじめて暗殺事件と北朝鮮とのつながりを明確にすることができる。 

  しかし、北朝鮮は一貫して居直っている。姜哲(カンチョル)駐マレーシア北朝鮮大使は20日の記者会見で「警察の捜査結果を信じることはできない」とし、今回の事件がマレーシアと韓国政府が結託して政治化したものだと主張した。 

  問題は北朝鮮のこのようなごり押しの主張を無力化させる、いわゆる「スモーキング・ガン(犯罪や事件解決の決定的証拠)」がないという点だ。
 まず死因の糾明が十分でない。
 警察は22日の2次会見で「女性容疑者が素手で被害者(金正男)の顔に毒物を塗った」と発表したが専門家はそのような毒物の存在に疑問を示している。

 遺体に対する最終的な身元確認も進んでいない。
 マレーシア警察もまだ死亡者をパスポートに記録された「キム・チョル」と提示している状況だ。

 この日、マレーシア警察がマカオに出向いて金正男の息子ハンソル氏のDNAサンプルを確保するという報道が出たが、マレーシア警察庁のタン・スリ・カリッド・アブ・バカル長官はこれを否定した。
 ただし、ノール・ラシド・イブラヒムマレーシア警察副庁長が同日「身元確認のために遺族が1~2日以内に訪問すると思う」と話し、ある種の手続きが進行中なのではないかという観測をもたらした。 

  遅々として進まない捜査をあざ笑うかのように北朝鮮大使館は22日の声明で「事件発生から10日が過ぎてもマレーシア警察は逮捕容疑者からどんな証拠も見つけていない」とし、イ・ジョンチョル容疑者と女性容疑者の釈放を要求してきた。 

  警察はとにかく段階別強度を高めている。
 バカル庁長は23日、「隠すことがないのならば協力を恐れる必要がない」と北朝鮮を圧迫した。外交官という身分上免責特権があるヒョン・グァンソン2等書記官よりはキム・ウギル容疑者側にフォーカスを合わせた。

 バカル庁長は「彼(キム・ウギル容疑者)が出頭しなければ法的手続きを始めるだろう」と話し、逮捕令状の請求を示唆した。警察側は同日北朝鮮大使館に2人に対する正式調査要請書を発送して平壌に逃走した4人に対してはインターポール(国際刑事警察機構)に手配を要請した。 

  そうしている間、北朝鮮とマレーシア間の外交摩擦は爆発直前だ。ダトゥク・セリ・モハマッド・ナズリ・アブドゥル・アジズ文化観光部長官は同日、自国民に今後北朝鮮訪問を自制するように話した。

 北朝鮮が「どんなことをするか分からない不良国家(rogue state)」という理由を挙げてのことだった。ダトゥ・セリ・ヒシャムディン・フセイン国防長官も北朝鮮について「非常に無礼だった」とし、「北朝鮮は限度を越えた」と警告した。 

  政界も加勢した。
 マレーシア連立政府を主導する統一マレー国民組織(UMNO)所属の青年委員会などは同日午後に北朝鮮大使館を訪問し抗議書簡を渡した。
 30人余りの抗議訪問団を導いたカイルール・アズワン・ハルン上院議員は「政府は北朝鮮と結んだビザ免除協定を破棄し、北朝鮮との外交関係も再検討しなければならないだろう」と要求した。 

  これに関してロイター通信はマレーシアの高官関係者とされる匿名の消息筋を引用してマレーシア政府が姜哲北朝鮮大使を追放したり、北朝鮮駐在マレーシア大使館を閉鎖する対応も検討中だと伝えた。
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