【ニューヨーク=稲井創一】
 米国を代表する資産家、ロックフェラー家が関連する基金ロックフェラー・ファミリー・ファンドは23日、米石油メジャーのエクソンモービルの株式を売却すると発表した。このほど決めた化石燃料関連業界への投資を中止する方針に基づくもの。同家に巨万の富をもたらした石油会社を源流に持つエクソン株も例外なく処分するという。

 同ファンドによると、気候変動が人類や生態系に悪影響を与えている現状を踏まえると、「世界中の人々が化石燃料の使用を減らそうとしているのに、こうした(石油企業などに)投資をする根拠は乏しい」。石炭や、カナダのオイルサンドの保有資産も同時に処分する。化石燃料関連の資産やエクソン株の保有株数などは公表していない。

 エクソンについては、「北極海の氷が後退しているにもかかわらず資源の探索を追求するなど、1980年代から気候変動に警鐘を鳴らす人々を当惑させてきた」などと批判。
 米メディアによると、ロックフェラー家関係者は2008年にエクソンに対して、企業統治のあり方を変えて代替燃料への転換などを求めてきたという。

 15年11月に地球温暖化リスクなどに関する情報開示が不適切だった疑いがエクソンにあるとして、米ニューヨーク州司法長官が調査を開始すると発表。
 15年12月にはパリで20年以降の新たな温暖化対策の枠組みが決まるなど、メジャー最大手としてエクソンの気候変動に対する姿勢が注目されやすい環境だった。

 ロックフェラー家はジョン・ロックフェラー氏が創設したスタンダードオイルによる石油支配で巨万の富を築いた。
 スタンダードオイルはその後、30以上の会社に解体されたものの、現在まで再編を繰り返し集約が進んだ。スタンダードオイルを源流に持つ企業の中でも本流格のエクソンとモービルが99年に合併してできたエクソンモービルは、ロックフェラー家にとって最も由緒のある企業だった。

 今回のファンドの決定についてエクソンは23日、「彼らの化石燃料関連への投資姿勢を踏まえれば、何ら驚くものではない。我々は気候変動のリスクを認識しており、行動も取っている」との声明を出した。
 エクソンは気候温暖化対策に消極的な姿勢を示していた時期もあったが、06年にレックス・ティラーソン氏が最高経営責任者(CEO)に就任して以来、方針を転換。炭素税導入を提唱するなど環境イメージの改善に努めていた。

※ロックフェラー家 
 モルガンやメロンと並ぶ米三大財閥の一角。
 19世紀末から20世紀初頭に米石油産業を支配したスタンダードオイルを基盤に巨大な財をなした。
 石油のみならず、金融や軍需産業など様々な企業も一族の傘下に収めていった。
日本経済新聞 2016/3/24