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[北朝鮮有数の工業都市咸興(ハムフン)には、肥料や化学繊維の巨大な工場群がある]

【ワシントン=黒瀬悦成】
 米紙ニューヨーク・タイムズ(28日付)は、米核問題専門家のジェフリー・ルイス氏らミドルベリー大(バーモント州)の研究チームの話として、北朝鮮が東部咸興(ハムフン)の化学繊維工場で弾道ミサイルの液体燃料である非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)を独自に製造している疑いがあると報じた。

 国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議は、この液体燃料を「弾道ミサイル関連物資」として禁輸対象に指定しているが、これまでロシアや中国からの密輸で調達しているとみられていた。

 核専門家の1人は、北朝鮮が液体燃料を独自製造できるとすれば、弾道ミサイル開発を断念させるための対北朝鮮制裁の効果は著しく損なわれると指摘。

 ルイス氏によれば、北朝鮮は長期戦で使用するのに必要な量の液体燃料を備蓄済みの可能性が高いと分析している。

 同紙によれば、研究チームは2013~16年に出版された北朝鮮の科学雑誌にこの液体燃料に関する詳細な論文が何度も掲載されているのを発見。

 論文の内容が大量製造に伴う問題点など具体的な言及が多かったことから、北朝鮮がすでに独自製造に入ったとみて製造場所の特定を図った。

 その結果、一部の論文の発信地が咸興にある、北朝鮮が「ビナロン」と呼ぶ合成繊維の工場であることが判明したとしている。

 同紙によれば、咸興は中央情報局(CIA)や脱北した北朝鮮当局者から、軍関連の化学物質製造施設が存在すると度々指摘されていた。
産経ニュース 9月28日


(参考)      
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UDMH=非対称ジメチルヒドラジン(エンジンの推進剤)

※UDMH=非対称ジメチルヒドラジン
 (Unsymmetrical dimethylhydrazine、UDMH、または1,1-ジメチルヒドラジン)
 ヒドラジンの誘導体の有機化合物。
 ロケットエンジンの推進剤として用いられ、酸化剤には四酸化二窒素や赤煙硝酸、液体酸素などが使用される。ヒドラジンに比べ高温でも安定しており、ヒドラジンと置き換えまたは混合が可能。
(特徴)
・アンモニア様の臭気を持つ無色透明の液体で、吸湿性を持ち、水に非常に溶けやすい。
・空気に触れると黄色に変色する。
・常温で気化しやすく、引火点が-10度のため引火しやすい。

【注】皮膚や粘膜に対して腐食性を持つ。
 また発がん性を持ち、国際がん研究機関の発がん性評価ではグループ2Bの発がん性の可能性がある物質に分類されている。
 日本では消防法により危険物第5類(自己反応性物質)に、毒物及び劇物取締法では毒物に指定されている。

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◆参考記事
【北朝鮮】8人の残留日本人、生存者一人に=総連機関紙が報道
 →平壌や元山(ウォンサン)、咸興(ハムフン)、羅津(ラジン)、清津(チョンジン)などで調査