金知衡(キム・ジヒョン)公論化委員会委員長
金知衡(キム・ジヒョン)公論化委員会委員長(中央)

 脱原発を公約にし宣言までしていた韓国の文在寅大統領だが、結局は原発建設再開を望む国民の意向を受け入れざるを得なくなった。
 文氏の構想はまたしてもつまずいた形で、政策の見直しも迫られそうだ。(ソウル 名村隆寛)

 北朝鮮との対話政策や、米軍の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備の先延ばしなど、文氏の公約の多くは、大統領就任後、頓挫を繰り返している。
 いずれも、北朝鮮情勢や対米関係といった現実を突きつけられ、政策転換を迫られたものだ。

 今回の原発建設再開への勧告について韓国政府は、再生可能エネルギーへの転換政策に「影響はない」としている。
 韓国経済への影響などを懸念し「脱原発政策を廃止すべきだ」という世論が強まる中、文在寅政権の脱原発路線そのものが転換を余儀なくされるかどうかは不明だ。

 政策の見直しや転換が続く文政権ではあるが、支持率は政権発足当初の80%台よりも下がったとはいえ、70%(韓国ギャラップの17~19日の世論調査)を維持している。
 支持理由の多くは「国民との共感への努力」「改革の意思」「最善を尽くし懸命にやっている」「市民のための努力」などで、いずれも「努力の姿勢」が評価されている。

 その一方で、北朝鮮をめぐる安全保障や経済政策など直面する問題に対する評価は低い。
 政権発足から5カ月しかたっておらず、具体的実績が出せなくとも一生懸命な姿がとりあえず評価されている。こうした文氏への期待感が、現在も高い支持率を維持させている側面がある。

 ただし、過度の福祉政策や国民生活の改善など「ばらまき公約」への不満も一方では根強い。
 理想主義的な公約で支持を固めた文氏ではあるが、今後も現実的な政策への転換を求められることは続きそうだ。

 文在寅政権は、朴槿恵前政権への不満が高まり噴出した末に誕生した。
 当然、文氏の支持層は要求が満たされない場合、不満を爆発させる可能性がある。現実と世論の動向に挟まれ、文氏の政権運営は続く。

■韓国の原発 釜山近郊の古里(コリ)原発1号機が今年6月に運転終了し、韓国で現在運転中の原子炉は24基。李明博、朴槿恵両政権は原発増設とプラント輸出を国家の基幹産業に据え、朴政権は電力需要増を見越し2029年までに原子炉を36基に増やす計画を立てていた。一方、文在寅大統領は脱原発政策を進めている。