オウム 新見 麻原

「結婚していても、彼を好きな気持ちが止められなかった」
 法廷で不倫相手への愛を赤裸々に告白した女(37)は、地下鉄サリン事件などの重大テロ事件を起こしたオウム真理教の元幹部、新実智光死刑囚(50)の妻だった。

 不倫していた男性2人に「妊娠した」とうそをつき、教団から派生した「アレフ」への入信を迫ったとされた強要未遂事件。
 女は強要目的を真っ向から否認し、「相手の愛情をつなぎ止めたかった」などと動機を説明した。公判は、公安当局が監視を強めるアレフ信者を当事者としながらも、W不倫に走った女の〝恋愛体質〟に焦点が当たる異様な展開をみせた。

 ◇獄中婚…寂しくて即不倫

 判決や弁護側の主張などによると、女が新実死刑囚と獄中結婚したのは平成24年8月。だが、2人の出会いはそこから7年以上前にさかのぼる。

 女は14年にアレフに入信し、大阪にある道場に通った。新実死刑囚のことはもともと、「背がスラッと高くて好みのタイプだった」という。

 女はある日、仲間の信者からオウム真理教元幹部の遠藤誠一死刑囚(54)と接見したという話を聞き、「羨(うらや)ましい。私も新実さんに会いに行く」と宣言。
 アレフでは新実死刑囚との接見は幹部信者しか許されていなかったが、女は教団に内緒で新実死刑囚の収容先の東京拘置所に手紙を送り、19年4月に初めて接見した。

 女は間もなく接見を突き止めた教団から処分され、道場から追放されたが、新実死刑囚への恋心は募るばかりだった。
 当初は月に2回差し入れをする程度だったが、21年12月には東京に引っ越し、週3~4回の接見を重ねるようになった。22年1月に新実死刑囚の死刑判決が確定。それも気にせず、2年半後に獄中結婚するに至った。

 新実死刑囚はたびたび女にあてた詩や短歌を創作。
 女も「愛情表現をしてくれている」と喜びを感じていた。しかし、〝普通〟とかけ離れた関係が次第に「寂しくなった」といい、既婚男性2人と不倫。それが今回の事件のきっかけになった。

 ◇デート→嘘の妊娠話→脅迫

 女は新実死刑囚と結婚する半年ほど前、20代のころに交際していたAさんと不倫関係になった。新実死刑囚と婚約中であることを明かした上で、ヨガのポーズや呼吸法を教えることもあったという。

 しかし24年4月、Aさんが関係解消を求めたのを機に、女の半年にわたる執拗な嫌がらせがスタート。妊娠話をでっち上げると、「あんた、そんな態度やったら私産むで」と宣告。

 Aさんが中絶を求めた際は、「あんたの人生むちゃくちゃにしたるからな」「あんたの嫁なんか壊れたらいいよ」などとするメールを間断なく送りつけた。

 脅迫行為は新実死刑囚との結婚後も続き、Aさんが警察に相談に行ったことを伝えると、Aさんの勤務先の会社に「妊娠しているのに会ってくれない。連絡するよう伝えてほしい」と電話。

 Aさんの自宅には、具体的な養育費の金額と20年間苦しめばいいという趣旨の文章を書いた張り紙をした。脅迫は、Aさんの代理人弁護士が接触しないよう女に警告する内容証明郵便を送るまで続いたという。

 懲りない女は25年1月、今度は中学時代の同級生のBさんをフェイスブックで誘惑。
 6月には東京・六本木の寿司店などでデートし、新実死刑囚の妻であることを正直に告げ、再び不倫に手を染めた。
 そして1カ月もたたないうちに妊娠を装い、「責任取ってや。これからいろいろな仕返しが来るから覚悟しときや」などと脅迫を始めた。

 7月初旬、女は話し合いをするためにBさんと会うと、アレフの教本「ベーシック・ダルマ」を提供。
「B君の頭の横にガネーシャ(ヒンズー教の神)が浮かんでいる。夫も特別だと言っている」として、アレフの教義を説明する「クンダリニー&チャクラ・メールセミナー」の案内メールを送った。

 さらに、同月下旬にはBさんの妻とも電話で会話し、呼吸法で練習を積めば(Bさんの)パワーが強くなる旨を力説したという。

 Bさんの被害届を受け、大阪府警は同年12月、強要未遂容疑で女を逮捕。自宅や教団施設など6カ所を捜索し、新実死刑囚への異例の聴取にも踏み切った。
 女の部屋の枕元には、教祖の麻原彰晃(本名・松本智津夫)死刑囚(59)の写真が飾られ、水が供えられていたという。

 アレフの組織的な関与があったのか-。教団最古参の出家信者の一人で、麻原死刑囚の警護役も務めた新実死刑囚の妻が逮捕されるという前代未聞の事件は、一躍世間の注目を集めることになった。

 ◇司法も「性的奔放さ」認定

 ところが今年2月に始まった公判は、そうした公安事件的な側面は影を潜め、女の〝恋愛体質〟ばかりがクローズアップされる異様な展開になった。

 アレフの信者だった女が当初からアレフに入信させる意図のもとに男性2人と不倫をしたとする検察側の主張に対し、弁護側は「不倫相手の心が離れていくことへのいらだちや妻へのねたみから、感情の赴くままに引き起こしたトラブルにすぎない」と入信強要目的を否認。
 新実死刑囚と結婚した24年8月以降はアレフの在家信者としての登録がないため信者には当たらないとし、Bさん事件については無罪も主張した。

 公判では検察側証人として不倫相手の妻が出廷し、「(脅迫した末に)だんなと友達でいたいと繰り返す被告の発言を聞いてゾッとした」と証言した。

 これに対し、女は被告人質問で「大好きだった人をあの手この手で引き留めようとした」「奥さんのことを気遣う相手を見てプライドが傷ついた」と犯行動機を説明し、「妊娠検査薬の使い方が分からず、妊娠したと思い込んでしまった」とも供述した。

 さらに、弁護側は最終弁論で、女が教団の戒律を破る行為を繰り返すトラブルメーカーで、貞操観念が低く、信者仲間からも「オウマー」(オウムウォッチャー)と揶揄されていたと指摘。改めて一部無罪を主張する一方、「被告の倫理観に欠けた行為は犯罪の成否とは別に、社会的に非難されるのは当然だ」と女を厳しく批判した。

 結局、大阪地裁は11月の判決で、女と新実死刑囚との手紙のやり取りや自宅の様子から、実質的な信者と認定。Bさんに対する強要未遂罪の成立を認めた。
 一方、Aさん事件については脅迫行為と入信の勧誘行為との繋がりが希薄であることを理由に、「被告の性的奔放さを背景に行われた犯行」と結論づけ、脅迫罪を適用。2つの事件を合わせて懲役1年6月、執行猶予4年(求刑懲役2年)を言い渡した。

「大山鳴動してネズミ一匹」
 弁護側は公判でアレフの組織的関与を疑った今回の捜査をこう表現したが、くしくも司法も弁護側の主張に沿うような判断をした。恋多き〝魔性の女〟に翻弄されたのは、不倫相手だけでなく、捜査側も同じだったのかもしれない。
産経ニュース 2014.12.2

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