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その日のうちに消えた董瑶琼氏

 7月4日、29歳の女性が一党独裁反対を叫んで習近平の写真に墨汁をかけた。その日のうちに拘束されたが、自撮りでネットにアップされた行動は連鎖反応を起こしている。民主活動家と中国共産党老幹部を取材した。

 ◇習近平「没落」で政治のリベラル化がやってくる?

 7月4日午前6時40分過ぎ、上海の海航ビルの前で、壁に大きく貼られた習近平の写真(ポスター)に墨汁をかけた女性が、その様を自撮りしてネットにアップした。女性の名は29歳の董瑶琼で、湖南省出身の29歳。このときは上海の不動産業関係の会社に勤務していたらしい。

彼女は概ね、以下のようなことを叫びながら、習近平の写真に墨汁をかけた。

●習近平の独裁的な暴政に反対する!

●中国共産党は私をマインドコントロールし、迫害している。

(筆者注:このとき彼女は「洗脳」という言葉を使わず、「脳控」という言葉を使った。これは「操る」とか「支配する」の中国語である「操控」の「控」の文字を使ったもので、「脳控」は「マインドコントロール」と訳すのが適切だろう。中国で建国以前から長年使われてきた「洗脳」を使わず「脳控」を使った意味は大きい。)

●私は習近平を恨む!

●(墨汁を習近平の写真にかけながら)さあ、見て下さい!私が何をしたかを!

●習近平よ、私はここにいる。さあ、捕まえにいらっしゃい。私は逃げない!

●中共が私たちをマインドコントロールして迫害していることを国際組織が介入して調査してほしい!

墨をかけられた習近平の顔の隣には「中国の夢」という政権スローガンが空しく呼び掛けている。


 ◇その日のうちに消えてしまった董瑶琼

 自撮り動画がネット上にアップされると、それは一瞬で中国語圏の多くのネットユーザーの間に広がり、大きな衝撃を与えた。

 その中の一人である民主活動家の華涌(芸術家、男性)が、董瑶けいの動画をシェアした。中国政府はツイッターの使用を規制しているが、VPN(Virtual Private Network)などを通せば使えるので、多くの人がツイッターを使ったり、中国で許されているメッセージアプリWeChatを使ったりして、その動画は凄まじい勢いでシェアされたのである。

ドアアイ

 午後になると董瑶琼は自宅から、ドアの覗き穴から見える私服や制服の公安局員の姿を発信した。

 それを見た華涌は董瑶琼に「ドアを開けるな!絶対に外に出るな!現場をそのままツイッターし続けろ!ネットユーザーが見続けている。それがあなたの身を守るのだ」と呼びかけ続けたが、やがて映像がプツリと消えた。そして彼女とは一切、連絡が取れなくなってしまった。
Newsweekjapan 2018年7月17日

墨汁かけ事件
董瑶琼さんの父親(右端)は現在拘束されて軟禁中
https://www.rfa.org/cantonese/news/smearing-07182018092451.html
(リンク先父親の動画あり)

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※劉暁波氏
 2008年に共産党一党独裁の廃止を求めた「08憲章」の起草者となり、09年に国家政権転覆扇動罪で懲役11年の判決を受け、10年に確定。劉暁波と妻の劉霞氏は共にノーベル平和賞を受賞している。

劉暁波
妻の劉霞氏(左)はいまだ軟禁中で安否の確認はできていない