竹中利権

 ◇欧州「移民受け入れ」で国が壊れた4ステップ
  これから日本にも「同じこと」が起きる

 出入国管理法改正案が、12月8日、参議院本会議で可決、成立した。これにより、今後5年で外国人単純労働者を最大約34万人受け入れることが見込まれ、2025年には50万人超を受け入れることも視野に入れていると言われている。 
 
 本稿では第2次大戦後、直近では「アラブの春」やシリア内戦以降、欧州による大量の移民受け入れによってどのような深刻な問題が生じたかを描いた『西洋の自死 移民・アイデンティティ・イスラム』を気鋭の政治学者が解説。実質的な「移民法」で、日本がどのようにして移民国家化へ進むのかを予測する。 

 ◇「平和ボケ」が「国のかたち」を変えてしまう 

 事実上、日本の移民国家化に先鞭をつけかねない、つまり「国のかたち」を変えてしまいかねない重要法案であったにもかかわらず、出入国管理法改正案の審議は拙速だった。
 衆参両院の法務委員会での審議は合計38時間にとどまった。
 たとえば、今年7月のカジノ解禁に関する法案(IR実施法案)の可決に比べても審議は短かった。 

 周知のとおり、欧州をはじめ、移民は多くの国々で深刻な社会問題となっている。にもかかわらず外国人単純労働者を大量に受け入れようとするのであるから、受け入れ推進派は最低限、欧州のさまざまな社会問題から学び、日本が移民国家化しないことを十分に示さなければならなかった。
 現代の日本人はやはり「平和ボケ」しており、移民問題に対する現実認識が甘いのではないだろうか。 

 そんななか、欧州諸国の移民問題の惨状を描き、話題を呼んだ1冊の本の邦訳が先頃出版された。イギリスのジャーナリストであるダグラス・マレー氏が著した『西洋の自死――移民・アイデンティティ・イスラム』(中野剛志解説、町田敦夫訳、東洋経済新報社)である。 

 欧州諸国は戦後、移民を大量に受け入れた。そのため、欧州各国の「国のかたち」が大きく変わり、「私たちの知る欧州という文明が自死の過程にある」と著者のマレー氏は警鐘を鳴らす。 

 昨年、イギリスで出版された原書は、350ページを超える大著であるにもかかわらず、ベストセラーとなった。その後、欧州諸国を中心に23カ国語に翻訳され、話題を巻き起している。
 イギリスアマゾンのサイトでみると、現在、レビューが750件以上もついており、平均値は4.8である。イギリス人に大きな支持を受けているのがわかる。 

 著者は本書の冒頭に次のように記す。
「欧州は自死を遂げつつある。少なくとも欧州の指導者たちは、自死することを決意した」。
「結果として、現在欧州に住む人々の大半がまだ生きている間に欧州は欧州でなくなり、欧州人は家(ホーム)と呼ぶべき世界で唯一の場所を失
っているだろう」。 

 本書では、「英国をはじめとする欧州諸国がどのように外国人労働者や移民を受け入れ始め、そしてそこから抜け出せなくなったのか」「その結果、欧州の社会や文化がいかに変容しつつあるか」「マスコミや評論家、政治家などのインテリの世界では移民受け入れへの懸念の表明がどのようにして半ばタブー視されるように至ったか」「彼らが、どのような論法で、一般庶民から生じる大規模な移民政策への疑問や懸念を脇に逸らしてきたか」などが詳細に論じられおり、非常に興味深い。 


 ◇入れ替えられる欧州の国民と文化

 イギリスをはじめとする欧州各国では、大量移民の影響で民族構成が大きく変わりつつある。本書で挙げられている数値をいくつか紹介したい。各国のもともとの国民(典型的には白人のキリスト教徒)は、少数派に転落していっている。 
東洋経済 2018年12月30日


 ◇十九世紀末の東欧系移民の大量流入がもたらしたもの

ノリッジ城の城壁の上に集うユダヤ人たち 最も古い戯画
ノリッジ城の城壁の上に集うユダヤ人たちの絵(1233年頃:中央公文書館所蔵)

 ――北英の毛織物工業の中心地=「リーズの暴動」(1917年)
 
 第一次大戦によって軍服の需要が急増し、リーズの基幹産業でありユダヤ人の代表的エスニック・ビジネスでもあった毛織物の被服産業が軍需景気に沸き、ドイツ系ユダヤ人所有の被服製造企業が巨利を得ていたこと、これらの企業で働くユダヤ人が「戦争忌避者」として看做されていたことが反ユダヤ感情に火をつけた。

 雇用の機会を求めて英国全土から多くの労働者がリーズに集まったが、イギリス人の若者が戦地に駆り出される一方で、東欧系ユダヤ人移民は英国籍を取得していないという理由で徴兵制(18歳~40歳が対象)の外に置かれ、そのため軍服製造工場の徴用工となることで兵役を免れていたのである。

 英国の若者たちが毎日夥しく戦死してゆく中、リーズの工場で報酬を得ながら安穏として働くユダヤ移民たちに対し、徴兵年齢を間近に控えた14歳~17歳の少年たちが中心となって暴動を引き起こしたのが「リーズの暴動」である。

   *   *

※第一次大戦下の英国における反ユダヤ主義とは

 ドイツを敵国として戦ったイギリスではすべてのドイツ系移民が敵性外国人とされ、「ドイツ的なもの」が一斉に排撃された。
 こうした状況下で保守党系の新聞は、英国ユダヤ人がドイツ帝国の手先として利敵行為を行っていると反ユダヤキャンペーンを開始。

 ロスチャイルド家に代表される英国ユダヤ人の最上層ファミリーの大半はドイツ出身であり、彼らのメイン・ビジネスであったマーチャント・バンキング業務(※①)が、ドイツ経済との間に深い人的・商業的コネクションを有していたがゆえに、一般の英国人が疑念を抱き、反ユダヤ感情が広く深く根を張ることになった。

(参考)ちょうど100年前頃のイギリスでは、地主貴族を除く資産100万ポンド以上の富豪の23%がユダヤ人、改宗ユダヤ人で占められていた。


※①マーチャント・バンキング業務=貿易手形の引受業務と海外証券の発行業務

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(参考文献)
『英国ユダヤ人~共生をめざした流転の民の苦闘』佐藤唯行
ユダヤ人永久追放はなぜおこったのか。儀式殺人告発とは何か。そして国王の恣意税とは…。「離散する民」にとって、島国イギリスは安住の地たりえたのか。英国史の文脈のなかにユダヤ人世界を明確に位置づけた力作。