船戸優里 イラスト

 ◇「『夫は結愛のために説教してくれている』と思うように」

 《東京都目黒区(東が丘一丁目14-3サンハイム好2階)で昨年3月、船戸結愛(ゆあ)ちゃん=当時(5)=が両親から虐待を受けて死亡したとされる事件の初公判。保護責任者遺棄致死罪に問われた母親の船戸優里被告(27)の罪状認否が終わると、検察官がどのように犯罪事実を証明するかを説明する冒頭陳述が始まった。犯行に至る経緯や動機はどこまで解明されるのだろうか。女性検事が冒頭陳述を読み上げる》

 検察官「検察官が証拠によって証明しようとする事実は以下の通りです」

 《優里被告と夫の船戸雄大被告(34)は昨年1月下旬ごろから結愛ちゃんに十分な食事を与えず、雄大被告の暴行で衰弱していたことを認識しながら、虐待の発覚を恐れて医師の診察を受けさせずに放置。結愛ちゃんは3月2日、低栄養と免疫力低下が原因の肺炎による敗血症で命を落とした》

 検察官「適切な保護を行わず、死に至らしめたことに争いはありません。今回は、いかなる刑を科すべきか。つまりは量刑をどうするかということです。犯行時の状況を時系列に沿って説明します」

 《優里被告と雄大被告は香川県で結婚し、平成28年11月に弟が生まれたころから、雄大被告による結愛ちゃんへの暴行が始まったという。優里被告の呼吸が荒くなる。「ハァハァ」という息づかいが法廷に響きわたる》

 検察官「平成28年11月26日に児相(児童相談所)が被害者を一時保護しますが、29年2月1日、一時保護は解除されました」

 《結愛ちゃんはその後も、児相の一時保護と解除を繰り返し、最終的に両親のもとに戻ることになるが、優里被告は児相と相談したり、育児外来に通院したりして香川県で支援を受けていたという。雄大被告が先行して単独で東京に転居。30年1月4日、結愛ちゃんの最後の身体測定が行われた》

 検察官「被害者の身長は105・2センチ、体重は16・6キロでした」

 《優里被告の呼吸がいっそう荒くなる。「スンスン」という荒い息づかいが静かな法廷に響く》

 検察官「東京に転居する際、移動中の電車で(結愛ちゃんを)撮影されました。写真画像はこの日が最後になりました」

 《雄大被告は、結愛ちゃんに、朝4時前に起きて平仮名や算数などの勉強をするよう強制した。食事も1日に汁もの1杯から2杯と制限された。だが虐待の発覚を恐れ、病院に連れて行くことはなかった。課題ができない場合は水のシャワーを浴びさせるといった暴行を受けた。2歳児並みの体重になるまでやせ細った結愛ちゃん。雄大被告による虐待の実態が次々と明らかにされていく》

 検察官「被害者の顔面を殴打し、腫(は)れ上がりました。被害者は嘔吐(おうと)を繰り返すようになりました」

 《結愛ちゃんは歩くことも話すこともできなくなり、容体が悪化。女性検事が119番通報や搬送時の状況を説明しようとすると、優里被告は呼吸を荒らげ、顔を手で覆うようにして泣き出した。裁判員や女性検事も優里被告の様子を気にしているようだ。検察官が裁判員に語りかける》

 検察官「被告人にいかなる刑を科すべきか。論点は4つです。1つ目は犯行態度の悪質性です。2つ目は被告人の役割の重大性。関与の程度がポイントです。3つ目は責任、非難の程度。この2と3は弁護人と検察官で主張が対立するところです。4つ目、最後は結果の重大性です。5歳の被害者が死亡、生命が失われた結果について考えていただきたいです」

 《そのとき、優里被告の呼吸がこれまで以上に大きくなり、前後に揺れながら泣き崩れた。女性弁護人が立ち上がり、優里被告に寄り添う》

 裁判長「ちょっと…」

 弁護人「過呼吸の状態です。手も冷たいし、しびれちゃってる。もう少ししたら休廷ですから」

 裁判長「どうするかな」

 弁護人「大丈夫だと思います」

 検察官「続けていいですか。証拠調べの順序を伝えます」

 《検察官は今後の審理で、搬送を担当した消防隊の中隊長や医師、品川児相の尋問を予定していることを明かした》

 検察官「被害者の記載したノート、メモ、被告人のラインのやりとりに関する証拠を調べます」

 《事件では、結愛ちゃんから両親にあてた手書きの文章が自宅アパートから見つかっている。1冊の大学ノートに、たどたどしいひらがなでつづられた「あしたはもっともっと できるようにするから」「もうおねがい ゆるして ゆるしてください」の言葉。必死に両親の愛情を取り戻そうとする結愛ちゃんの悲痛な訴えだった》

 検察官「児童福祉行政のあり方について議論になっています」

 《今回の事件後、虐待情報に関して香川県と東京・品川の児相の連携不足も指摘され、児相の体制強化など法改正へとつながった。検察官が裁判員に語りかける》

 検察官「皆さんにおかれましては、適切な刑罰を決めていただきたいと思います」

 《公判は弁護側の冒頭陳述に移った。優里被告は依然として過呼吸の状態。荒い息づかいが聞こえる》

 弁護人「なぜ自分の子を救えなかったのか。雄大さんの心理的支配、心理的DV(ドメスティックバイオレンス)がありました。(夫に)反発できなくなりました。抵抗できなくなりました。まるで洗脳されているような状態です」

 《虐待を止めることができなかった責任はあるものの、執拗(しつよう)な心理的DVを受けていたことで、雄大被告に抵抗できなかったとの主張だ。雄大被告との出会いは香川県内の職場だったという》

 弁護人「(雄大被告は)8歳年上で、何でも知っているあこがれの人でした。結婚して下の子(弟)を妊娠したころから、『子育てができていない』などと説教されるようになりました。説教は連日2~3時間続きました。(優里被告は)自分のために説教してくれているのだと思うようになり、説教を受けた後、『ありがとう』と言うようになりました」

 《結愛ちゃんへの暴行を止めようとすると、雄大被告に優里被告は「かばう意味が分からない」と怒られたという》

 弁護人「離婚も考えましたが、何度も言い聞かされるうちに『彼(雄大被告)は結愛のために説教してくれているんだ』と思うようになりました」

 《あこがれの人と結婚した優里被告はどのようにして、雄大被告に「心理的な支配」をされていったのか》

母親初公判詳報(1)
母親初公判詳報(2)
母親初公判詳報(3)
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