中露合同訓練

 多くの米軍関係者たちは、過去の中華人民共和国とソビエト連邦の関係から類推して、中国とロシア間の軍事同盟は成立不可能とは言わないまでも、成立は極めて困難であろう、と考えてきた。

 つまり、いくらアメリカが中国とロシアを仮想敵視しているとはいえ、両国が軍事同盟を結ぶ、あるいは軍事的な同盟関係に近い密接な協力関係を構築する、といった事態は到来しないだろうというのである。ところが実際には、中国とロシアの軍事的交流は加速度的に強化されているのだ。(北村淳)

 ここ数年来、中国海軍とロシア海軍の合同訓練の規模は拡大している。ロシアで実施される大規模軍事演習に中国軍地上部隊や航空部隊が参加するようにもなった。ロシア軍と中国軍の将校レベルの交流は強化され、3600人にも上る中国軍将校がロシアの士官学校などで学んでいるという。

 また、中国が構築している最新鋭ミサイル防衛システム(中国や北朝鮮をアメリカの攻撃から防御するとともに、日本や韓国それに台湾にとっては大きな軍事的脅威を加えることになる)に対し、高性能早期警戒システムの援助を始めることをプーチン大統領が許可した。

 以上のように、「中ロ相互防衛条約」といったような成文化された軍事同盟は締結されずとも、中ロ両国の軍事関係が親密度を深めていることは事実である。

 冒頭に書いたような、「中ロは軍事的には結びつかないだろう」という「中ロ軍事同盟」への伝統的な考え方は根拠を失いつつあるのだ。このような現実を踏まえて、どういう形になるかは別として、「中ロ軍事同盟」が実質的に形成される可能性は否定できないと考える人々も増えてきた。

 しかしそのような見方をする人々の多くも、たとえ中国とロシアが軍事的に手を結んだとしても、「中ロ同盟」といった状態は長続きせず一時的なものに終わるであろう、と考えている。したがって、「どうせ『中ロ同盟』が結成されても、すぐに解消されるに違いないから、さして心配するほどのことでもない」というのである。

 しかしながら、「中ロ同盟」が短命に終わろうが長続きしようが、中国にとって大した問題ではないであろう。何といっても中国には合従連衡の伝統があるからだ。

 現時点では、ロシアと中国それにイランや北朝鮮など反米諸国が手を組むことが合従策になり、中国やロシアなどがそれぞれ覇権国であるアメリカと妥協することが連衡策になる。
 しかしアメリカ自身が中国とロシアを仮想敵と公言し、そのような軍事態勢に転換している以上、連衡策は成り立たないことになる。

 合従策にせよ連衡策にせよ、もともと自国にとって事態が好転するまでの外交手段にすぎない以上、「中ロ同盟」が恒久的な外交関係になるなど、中国もロシアも考えていない。
 したがって、「たとえ『中ロ同盟』が誕生しても長続きしないから恐れることはない」というのは単なる気休めにすぎない。
朝日新聞 12/1(日)

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