※この記事を目にした時、新潮社と某新進実力作家S氏のバトル、鳴り物入りで登場し、当時最年少記録を更新した、京大出身作家H氏の「芥川賞受賞」の話が真っ先に頭に浮かびました。

 作品を“盗まれた”と主張する被害者のほうが切り捨てられ、被害作が絶版になった揚句、芥川賞最年少受賞作家が世に出ることになったわけですが、直後に文壇内の美貌アイドル作家綿谷りさ氏に最年少記録を更新されて以来、あまり話題にも登らなくなったようです。現在どうしてるんでしょうね。
 この顛末は某巨大掲示板でも話題になっていましたが、そのS氏も今はどうしているのか分かりません。

 文壇内事情から起こった芥兀(こつ)賞選考を巡る悲喜劇を描いた『大いなる助走』(筒井康孝)が参考になるかもしれません。――文壇の仲間入りをし、生き残っていくためには、若さ、美貌、タレント性、キャリア(人脈)、お金、“大いなる覚悟”などのうち複数を持ち合わせなければ幸運の女神はほほ笑まない、そういうリアルな内幕を描いた問題作です。

 今回は(文壇内での)若さと美貌、タレント性(将来性)が決め手になるのかなと、ふと思いました。文芸春秋とともに出版界の双璧と言われる講談社が推すわけですからたぶん受賞するでしょうし、受賞作とともに第二作(受賞第一作)も注目されるのは間違いありません。

        * 

群像新人賞『美しい顔』

 芥川賞候補作で、北条裕子さん(32)のデビュー小説「美しい顔」が、参考文献を明記せずに文芸誌「群像」(6月号)に掲載された問題で、同誌発行元の講談社は3日、「作品の根幹に関わるものではなく、著作権法に関わる盗用や剽窃)などには一切あたりません」とするコメントを発表した。
 同社は「評価を広く読者と社会に問う」として、同作の全文を近日中にホームページ上で無料公開する。

 「美しい顔」は津波の被災地を、被災した少女の視点で描いた作品。東京都在住の北条さんは東日本大震災の被災地に行ったことはない、と説明していた。

北条裕子
北条裕子さん

 講談社によると、北条さんが主な参考文献として使用したのは、石井光太さんのノンフィクション「遺体」(新潮社)など5冊。
 同社は「参考文献未表示の過失についておわびいたします」と謝罪した。他に参照した書籍の著者や関係者には、「誠意をもって協議させていただく」としている。

 その一方で、小説にある被災地の描写と参照した書籍の類似は、「一部の記述に限定される」と主張。インターネットなどで、「盗用や剽窃」といった文言が飛び交い、著者らへの批判や中傷が相次いでいることについて、「多くの関係者の名誉が著しく傷つけられたことに対し、強い憤りを持つとともに、厳重に抗議いたします」とした。

 また、参照された「遺体」の出版元である新潮社が6月29日、「単に参考文献として記載して解決する問題ではない」との見解を示したことについても、「小説という表現形態そのものを否定するかのようなコメントを併記して発表されたことに、著者は大きな衝撃と深い悲しみを覚え、編集部は強い憤りを抱いております」と抗議した。

 そのうえで、「『美しい顔』が持つ優れた文学性は、新人文学賞選考において確たる信により見いだされたもの。(参考文献不掲載の)問題を含んだ上でも、本作の志向する文学の核心と、作品の価値が損なわれることはありません」。
「著者の尊厳を守り、(同作の)評価を広く読者と社会に問うため」として、近日中に同作を全文無料公開する。

群像新人賞 北条裕子

 「美しい顔」は今年の群像新人文学賞の受賞作。今月18日に選考会が行われる第159回芥川賞の候補にもなっている。芥川賞を主催する日本文学振興会は3日、「現時点では候補作に変更はない」とコメントした。
     
■主な参考文献は以下の通り。
「遺体 震災、津波の果てに」石井光太(新潮社)▽「3.11 慟哭(どうこく)の記録 71人が体感した大津波・原発・巨大地震」金菱清編/東北学院大学 震災の記録プロジェクト(新曜社)▽「メディアが震えた テレビ・ラジオと東日本大震災」丹羽美之/藤田真文編(東京大学出版会)▽「ふたたび、ここから 東日本大震災・石巻の人たちの50日間」池上正樹(ポプラ社)▽文芸春秋2011年8月臨時増刊号「つなみ 被災地のこども80人の作文集」(企画・取材・構成 森健/文芸春秋)
産経ニュース 2018.7.3

        *

◆関連記事
【ノーベル文学賞】日系英国人作家のカズオ・イシグロ氏(62)受賞
 →アジア圏の受賞者は12年の莫言氏(中国)以来。著作『日の名残り』『私を離さないで』など。

ノーベル文学賞はベラルーシの作家に
 →ジャーナリストで作家のスベトラーナ・アレクシエービッチ氏が受賞。著作『チェルノブイリの祈り』

筒井康孝著

※追記あり(コメント欄)