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 2010年4月、土壌汚染対策法が改正施行され、豊洲市場用地も、工事するためには区域の指定申請を受けなければいけない対象になり、国の指定調査機関が調査の業務委託を受けた。

 「しかし、指定調査機関が状況調査報告書を作成するときに、ベンゼンの汚染基準不適合区画のうち、305区画で調査をせずに区域指定をしていたのです。最初から、区域外しをしますと、土壌汚染対策法上の流れとして、汚染はないとして扱われますので、そこが汚染区域として表には出てこないことになるのです」(水谷氏)

 いったい、これまで「汚染区域」の指定は、どのように行われてきたのか。また環境局は、どのような審査を行ってきたのか。都から、調査の経緯の説明が求められる。

◆「東京都は何をしているのか?」 突き付けられた膨大な公開質問状

 今年11月、豊洲への移転が決まった築地市場の関係者は、怒りを隠さない。課題山積の状況で東京都が推し進める移転計画には無理があるというのだ

 「本当に何とかしてくれよ!」

 「このままでは、東京中の飲食店で食材が届かない事態が続発するのは間違いないよ!」

 今年11月の豊洲新市場(東京都江東区)の開場まで、あと8ヵ月あまりまで迫ったというのに、築地の“魚屋”たちの不安や怒りは一向に収まることがない。
 それどころか、土壌汚染対策法上で定められた「帯水層(地下水を含んでいる地層)の底面調査」を行っていないのに「調査や対策が完了した」かのように“偽装”していた疑いが浮上するなど、新たな問題が続々と出てきている。

 筆者は、築地市場の仲卸業者ら140人が参加して、「なぜ11月開場なのか?」などと口々に怒る「より良い市場を築くつどい」の様子を、昨年末にダイヤモンド・オンラインに寄稿した記事『築地移転まで1年弱でも鳴り止まない仲卸業者の怒号』の中で紹介した。

 そして今月22日には、築地市場の関係者や消費者団体などでつくる「守ろう!築地市場パレード実行委員会」が、東京都の舛添都知事宛てに、なんと33項目にわたって疑問を連ねた膨大な公開質問状を手渡したのだ。

 疑問の中身も、豊洲市場用地での土壌汚染問題から、護岸に設置する濾過海水施設、交通アクセス、施設設計の床積載荷重、東京オリンピックに関するものまで多岐にわたる
「新店舗は狭くて商売できない」などと都庁記者クラブで説明する築地の仲卸業者ら(2月22日)

 中でも、新たに明らかになったのが、新市場用地において、概況調査でベンゼンが検出され、土壌汚染対策法で規定された「帯水層の底面調査」を行わなければならなかったにもかかわらず、300を超える区画で底面調査が行われずに「汚染区域の指定」から外れた問題だ。

 都の中央卸売市場は、ホームページ上で、<豊洲新市場予定地については、法令で求められる水準を上回る手厚い内容の対策をとる>と説明してきた。

 会見した同実行委員会メンバーで一級建築士の水谷和子氏によると、
「発がん性物質であるベンゼンの汚染が調査されていない333区画中、305区画について、都は最初から汚染のない区画として振り分け、土壌汚染対策法上の指定の申請を行ったこと」
「指定の申請時に添付された状況調査報告書は、指定検査機関の作成したものであるが、ベンゼン305区画を不適合区画から外し、虚偽記載を行ったこと」
「都の環境局は、指定の審査を怠り、(もしくは故意に)状況調査報告書の虚偽記載に対し、是正指示を行わないまま、都知事名で区域指定を行ったこと」
「これら一連の不正は都と指定調査機関の合作であること」が明らかになったとしている。

 また、築地市場で現在使用している「濾過海水」について、都は当初、豊洲新市場では「使わない」と説明してきたのに、突然「護岸から取る」ことになったという。


◆濾過海水を護岸から取水? 突然の方針変更に戸惑う仲卸業者

 築地で47年にわたってマグロ仲卸をしている「小峰屋」の和知幹夫氏は、こう現状を訴える。

 「333ヵ所の地下水の再検査、新市場近辺の海水や海底の化学物質の汚泥調査もしていない。新市場の仲卸店舗と競り場との間を走っている315号線の道路の下には、現在も当時埋めた化学物質入りのドラム缶が100本以上残存していて、腐食して沁み渡り、地下水に流れ込んでいるため、その海域には魚がいないのが現状です。しかし、都は6街区の仲卸店舗近くから取水を許可しているのです。濾過装置は、我々仲卸と荷受で施行しなさいと押し付けています」

 仲卸従業員の東京中央市場労働組合執行委員長の中澤誠氏が、こう補足する。

 「都は当初、豊洲では濾過海水が使えないから真水で人工海水をつくらないといけないると、ずっと言ってきた。ところが、ここにきて突然、護岸から取ることになったのは深刻です。汚染が残っている可能性は高いし、汚泥に汚染物質がいっぱいあることは予想できる。そういったものが活魚の水槽に入って来るとなれば、大変なことになる」

かねてから懸念のある交通アクセスの問題についても、こう説明した。

 「新宿・池袋当たりの午前中配送が難しくなるのではないか、という話も出ていて、みんな怒っています。都からは、全然説明がありません」

 さらに、施設の設計についても、業界内で合意形成されていなかったという。とくに、床の積載荷重について、中澤氏は言及する。

 「どんな物流施設でも、フォークリフトの使用を前提に、㎡あたりり1.5tが最低限のスペックです。しかし、豊洲市場の床積載荷重は、卸売場が1t、仲卸売り場が700㎏しかありません。すぐに床が抜けることはないでしょうけど、50年後の人たちに残す市場になっていない」

◆土壌汚染問題の担当課長に聞く “魚屋”たちの思いは報われるか?

 結論を焦るあまり、いろいろな課題が山積みになったまま先送りされているようにも思える。いったい、都は何をやっているのか。

 「都としては、濾過海水施設が必要なのであれば、業界のほうで整備してくださいと話していて、最終的には整備するというので土地を用意した。交通アクセスについてはまだ確定していない。積載荷重も、専門家が市場の運用実態を見ながら設計している」(都中央卸売市場管理課)

 一方、都の中央卸売市場の土壌汚染問題の担当課長に、なぜ305区画で帯水層の底面を調べなかったのかの確認を求めると、こう説明した。

 「(305という)数は確認していませんが、汚染のない区画になっているということです。国の指定調査機関の判断によるものなので、私どもでいい悪いは言えません。私どもは、それにのっとって都の環境局に申請して、汚染の区画が指定されている状況です。外れている区画はありますが、虚偽記載かどうかについては、質問者の方のお考えだと思いますので回答できません」

 概況調査で汚染が出ているにもかかわらず、「汚染はない」区画として状況調査報告書を作成してきた指定調査機関にチェックや確認をしなかったのか。「これでは偽装と受け止められても仕方がないのではないか」と聞いてみた。

 「国の第三者機関である指定調査機関として適切に汚染の状況を調査されていると、我々は考えています。偽装にも当たらないと思います」

 そうだとしても、こうして調査しないまま残されている区画があったという事実が、後になって出てくる。使用される利用者にとっても消費者にとっても「安心・安全」の観点を考えるなら、何重にもわたって確認して、最初からきちんと説明するべきではなかったのか。

 いったい、どのような判断に基づいたものなのか。指定調査機関では、「都から受託されている業務であり、守秘義務がある。我々からは基本的には答えられない」としている。

 実行委員会では、舛添都知事に対し、3月5日までにファクスで回答するよう求めている。質問の中には、これまで行われてこなかった公開の場での説明会の開催も訴えている。“魚屋”たちのやり場のない怒りは、都が誠実な回答を行わない限り、収まることはないだろう。
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