ザリガニ(クレイフィッシュ)の仲間のほとんどは、交尾をすることで繁殖するが、ペットから進化を遂げたあるザリガニは、交尾をしない。代わりに自分のクローンを生み出すことで繁殖する。クローン能力を身につけたこのザリガニは今、オスなして爆発的に数を増やしている。
2月5日付けで学術誌ネイチャー・エコロジー&エボリューションに発表された論文によると、ドイツの研究者たちは、マーブルクレイフィッシュ(通称:ミステリークレイフィッシュ)と呼ばれる新種のザリガニのゲノム塩基配列を解読した。
その結果、調べた11個体すべてのゲノムがほぼ同一であることがわかった。つまり、このマーブルクレイフィッシュは交配による生殖はしないということだ。北米に生息する原種は普通に交尾で繁殖するので、それとも異なる新種だということになる。
その結果、調べた11個体すべてのゲノムがほぼ同一であることがわかった。つまり、このマーブルクレイフィッシュは交配による生殖はしないということだ。北米に生息する原種は普通に交尾で繁殖するので、それとも異なる新種だということになる。
ドイツがんリサーチセンターの後成遺伝学部門を統括するフランク・リコは本誌に対し、「きわめて短い期間で進化的な事象が発生したということだ」と述べた。「長い時間が経てば、だんだん普通の繁殖方法に変化していくかもしれないが、現在この時点においては、大変珍しい現象が起こっているということだ」
リコの説明によると、新しい種の形成には通常、数千年かそれ以上の年月をかけた進化が必要だ。だが、北米原種のクレイフィッシュがペット業界で流通するようになったのはほんの数十年前のこと。そしてその中から、これまでとは異なるたぐいまれな種が誕生したことになる。
◇5年で新種に変化
この新種のクレイフィッシュが生まれた過程もまた驚くべきものだ。通称ファラックスと呼ばれるクレイフィッシュは最初、ペットとして北米からドイツに渡り、インターネットやペットショップ、熱帯魚店で販売されるようになった。
ところが、1990年から1995年までの間に、ファラックスは新たな種へと進化した。人々は、すぐに新種だと気付いた。新種は体がマーブル模様で、メスしかいなかったためだ。
ところが、1990年から1995年までの間に、ファラックスは新たな種へと進化した。人々は、すぐに新種だと気付いた。新種は体がマーブル模様で、メスしかいなかったためだ。
「メスしかいない。オスはどこにいるのか、とみんな首を傾げた」とリコは話す。
結局、マーブル模様のクレイフィッシュはメスしか存在せず、1年に2~3回、自分でクローン繁殖(単為生殖)をすることがわかった。
この新種のクレイフィッシュはあまりにも急激に増え、飼育していてもどんどんクローンが生まれる。そのため、ペットとして販売する分には好都合だが、水槽で1匹だけ飼いたい人にとって問題となった。
リコによれば「水槽に何匹か入れておくと、父親がいなくても1年後には数百匹に増えている」のだ。
ではどうしたらいいのか。ペットとして飼っていたものを殺すのには抵抗があり、水辺に放すことを選びたくなるのではないだろうか。しかしそうすると、クレイフィッシュは次から次へと繁殖していく。
そうした過程を経てクレイフィッシュは、ペットとして人気があったドイツやマダガスカルで侵略的外来種となった。マダガスカルでは、ユニークだが歯止めのきかないこの生物が何百万匹もうろうろし、今も倍々ゲームで増え続けているはずだ。
(翻訳:ガリレオ)newsweek japan