アフリカ外で焼く20万年前の人骨

【AFP=時事】ギリシャの洞窟で発見された頭蓋骨の化石を分析した結果、アフリカ以外で見つかった中では最古となる21万年前の現生人類(ヒト)の骨であることが分かったとの研究結果が10日、英科学誌ネイチャー(Nature)に発表された。これまで考えられていた人類の欧州到達時期を15万年以上さかのぼることとなる。

●頭蓋骨の一部を再現した別画像
21万年前の人骨 ギリシア

 ヒトのユーラシア大陸進出についての通説を覆すこの驚くべき発見はまた、現生人類ホモ・サピエンスが数万年かけてアフリカ外への移住を何度も試み、時には成功しないこともあったとの説を裏付けるものだ。

 欧州の南東部は長い間、現生人類がアフリカから移動した際の主要経路となったと考えられてきたが、これまでユーラシア大陸で見つかったヒトの最古の痕跡は約5万年前のものだった。

 ただ、初期人類のネアンデルタール(Neanderthal)人が太古の昔からユーラシア大陸全土に存在していたことを示す発見は複数あった。

 ギリシャの洞窟では1970年代、損傷のひどい頭蓋骨の化石2つが発見され、いずれも当時はネアンデルタール人のものと特定された。

 国際研究チームは今回、これらの頭蓋骨を最先端のコンピューターモデリングとウラン年代測法を用いて再調査した。

 2つの頭蓋骨うち、発見場所となった洞窟の名前にちなんで「Apidima 2」と名付けられたものは、17万年前のネアンデルタール人のものと特定された。

 しかし驚くべきことに、もう一つの「Apidima 1」は「Apidima 2」よりも最大で4万年ほど前のホモ・サピエンスと特定されたという。
【翻訳編集】 AFPBB News
AFP 7/11(木) 


ミスリア洞窟の化石の歯は現生人類としては大きな部類に入る

 ◇アフリカ以外で最古の現生人類の化石 従来説変えるか

 国際研究チームはこのほど、イスラエルで2002年に見つかった化石が、アフリカ以外で最も古い現生人類(ホモ・サピエンス)のものだと分かったと発表した。人類がアフリカから分散した時期が従来の説よりも早かった可能性が出ている。

 化石は約18万5000年前のものとみられ、アフリカ以外でこれまで最も古い現生人類のものとされてきた化石より8万年ほど前になる。

 研究結果は科学誌「サイエンス」に掲載された。

 研究の共同筆頭著者、テルアビブ大学のイスラエル・ヘルシュコビッツ教授はBBCニュースに対し、今回の発見によって現生人類の進化についての見方に根本的な修正が迫られると語った。

同教授は、「人類の進化の物語全体が書き換えられる必要がある。我々の種だけでなく、当時アフリカの外で生きていたほかのすべての種についても」と説明した。

 今回の研究に参加していないロンドン自然史博物館のクリス・ストリンガー教授は、「今回の発見は、現生人類は13万年前以前にはアフリカにしかいなかったという、長らく信じられてきた限界を打ち砕いた。
 新たな年代決定は、もっと古いホモ・サピエンスでさえ西アジア地域で発見される可能性を示唆している」と語った。

ミスリア洞窟
ミスリア洞窟は海抜90メートルの位置にある

 新たな年代決定の証拠が出たことで、現生人類とすでに絶滅したほかのヒトの種との間に、何万年にもわたる交流があった可能性が示されている。
 また、従来の説よりも早い時期に人類がアフリカから旅立っていたことを示唆する、最近の発掘成果や遺伝子研究の成果とも一致する。

 研究者たちは、2002年にイスラエルのミスリヤ洞窟で見つかったあごの骨の一部を分析した。歯が8本残る骨はその特徴から、同時代に生きていた現生人類以外の種ではなく、現生人類のものだと指摘されていた。

 発見当時に考古学者が当初抱いた印象が正しかったことが今回、国際研究チームによって証明された形となった。

 研究者たちは、コンピューター断層撮影(CT)によって3Dのバーチャル模型を作り、アフリカや欧州、アジアで見つかったヒトの化石や現生人類のヒトの骨と比較。あごの骨が現生人類のものだと確認した。これとは別に、歯冠の下の組織をスキャンし、現生人類だけに見られる特徴があるのを発見した。

 それぞれ異なる年代測定方法を使う3つの研究施設が、お互いの測定結果を知らされずに出した、この化石化した骨の年代特定では、17万7000年から19万4000年前となった。

 これまでアフリカ以外で最も古いとされてきたヒトの化石は、イスラエルにある発掘現場のスクールとカフゼーで見つかった9万年から12万5000年前のものだ。

ミスリア遺跡 焚火の跡
灰らしき堆積物が残るたき火の跡(ミスリア洞窟)

 ミスリヤ洞窟で発見された化石は、その地域で25万年から14万年前にかけて使われていた石器のルバロワ型石核と同じ地層で見つかっている。もし、現生人類がその地域で生きていたこととルバロワ型石核とが関連付けられれば、現生人類がアフリカから出た時期は、ミスリヤ洞窟の発掘物の年代よりも前の可能性さえある。

 最近までは、現生人類がアフリカから出発したことを示す早期の証拠はレバント(東部地中海沿岸地方)に限定されていた。

 しかし過去数年、中国湖南省の道県や中国南東部の広西壮族(チワン族)自治区にある智人洞窟で発見された現生人類の化石が8万年から12万年前のもので、従来考えられてきたよりも早い時期にユーラシア大陸で分散していた可能性が示されている。

 さらに、アフリカから出たヒトとネアンデルタール人の間で早い時期に混血が起きていたことが遺伝子研究から判明している。

 21万9000年から46万年前のネアンデルタール人との混血を示す、ドイツで見つかった骨に関する研究論文が昨年発表されている。また2016年には欧州の研究チームが、約10万年前にシベリアのアルタイ地方で、アフリカからやってきたヒトとネアンデルタール人との混血が起きていたことを示す証拠を見つけたと発表した。

 ヘルシュコビッツ教授は、「新たな証拠の断片があまりに多くて、どこに当てはまるのか分からなかった」と語った。

「新しい発見があったことで、すべての断片がつなぎ合わせられた。(アフリカから)出た時期は、ミスリヤ洞窟で見つかった石器と同じ時期の25万年前までさかのぼれる可能性がある」

 しかし、ミスリヤ洞窟から示唆される、早い時期での現生人類のアフリカからユーラシア大陸への分散の結末は、絶滅だったとの見方が一般的だ。

 遺伝子学および考古学研究では、アフリカ以外にいる現在の人類の祖先がアフリカから出たのはわずか6万年前だったとされる。これまでのDNA調査で、6万年前より前に我々の祖先がアフリカから出ていたことが示された例はほぼない。

 アフリカにいたヒトが解剖学的に現生人類に進化した時期についても、新たな発見がされている。モロッコで見つかった初期の現生人類のものとみられる化石の年代特定で、31万5000年前という研究結果が昨年発表された。

 これは、現生人類の始まりを20万年前とする一般的な見方よりも大幅に古い年代だ。従来の説は、遺伝子学研究やエチオピアのオモで出土した19万5000年前の化石などをその証拠とするが、今後の発見によっては年代がさらに早められるかもしれない。

(英語記事 Modern humans left Africa much earlier)
BBC 2018年01月26日

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