東京3次訴訟判決 解説(佐々木亮弁護士)
平成30(ワ)39432
判決:令和元年8月21日 13:15~

■原告:佐々木亮、北周士

■被告:(緑字は出廷した被告)
A=茨城(70代・女)
B=新潟K・Y(40代・男)
C~J=大分、宮崎、茨城、北海道、宮城、長野、三重、鳥取(順不同)

■選定当事者:B=新潟K・Y(40代・男)
■代理人:佐々木亮、北周士、兒玉浩生、倉重公太郎、嶋﨑量、田畑淳、向原栄太郎、山田祥也

原告弁護士及び代理人(左上から上記紹介順)
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【主文】
1 被告A→佐々木 33万円
2 被告A→北 33万円
3 被告選定当事者Bは、選定者B~Jのために、佐々木にそれぞれ33万円
4 被告選定当事者Bは、選定者B~Jのために、北にそれぞれ33万円
5 訴訟費用は10分し1を被告A、その余を被告B
6 1~4の仮執行宣言

■認定した事実は他の事件とほぼ同じ

1)佐々木亮と北周士が東弁(東京弁護士会)に所属する弁護士であること
2)東京弁護士会会長が「朝鮮学校への適正な補助金を求める会長声明」を出したこと
3)被告らが佐々木に懲戒請求したこと
4)佐々木が「この懲戒請求は保守派の先生もひどいと言ってますよ」とツイートしたこと
5)このツイートに北周士が、「ささき先生とは政治的意見は異なるがこの懲戒請求はひどいので損害賠償請求は認められるべき」とツイートしたこと
6)この北周士のツイートに対し被告らが懲戒請求したこと

◆争点1 本件懲戒請求は違法か?
弁護士法58条1項は、恣意的な請求を許容したり広く免責を与える趣旨の規定ではないから、請求者は、懲戒請求を受ける対象者の利益が不当に侵害されることがないように、対象者に懲戒事由があることを事実上・法律上裏付ける相当な根拠について調査・検討する義務を負う。

そうすると、事実上又は法律上の根拠を欠く場合において、請求者がそのことを知りながら、又は通常人であれば普通の注意を払うことでそのことを知り得たのに、あえて懲戒請求をするなど、弁護士懲戒制度の趣旨目的にてらして相当性を欠くと認められる場合は違法な懲戒請求として不法行為となる。

これを佐々木への懲戒請求についてみると、被告らの主張によっても、佐々木が本件声明に関与したり賛同したことをうかがわせる事情もない。
また、本件声明は内容が違法でもなく、ましてや犯罪行為にあたるとはいえないことは明らか。そうすると評価的要素も含めて事実上の根拠を欠くというほかない。

また本件声明の関与をもって弁護士法56条1項所定の懲戒事由である同法又は東弁会則違反、弁護士としての品位をうしなうべき非行にあたらないことは明らかであるから、法律上の根拠も欠く。

懲戒請求者は法律家でなくても通常人としての普通の注意を払えば佐々木への懲戒請求が事実上の根拠を欠くことについて、少なくとも声明への関与を裏付ける事実関係がうかがわれないこと、声明への関与をもって犯罪行為とはいえないことを知り得た。

また、懲戒事由の内容自体から法律上の根拠を欠くことを容易に知り得たということができる。
そして、被告らの主張をみても、佐々木の本件声明への関与、賛同、又は推進、本件声明の違法性に関する具体的な事実が何ら示されていないこと、かえって、懲戒請求の書式が請求者の氏名等の記入をするだけの同一のものであることからすると、

本件懲戒請求者は、それぞれ、佐々木に弁護士法56条1項所定の懲戒事由があることを事実上又は法律上裏付ける相当な根拠があることについて調査、検討をすることもないまま、何者かの呼びかけに呼応し、付和雷同的に懲戒請求するに至ったものと推認できる。

したがって、佐々木への懲戒請求は、弁護士懲戒制度の制度趣旨目的に照らして相当性を欠くものといわざるをえないから、本件懲戒請求者は、不法行為責任を負う。

次に北への懲戒請求は、北が佐々木の懲戒請求には根拠がないことを非難し、佐々木の損害賠償請求に関する法的見解を述べているにすぎず、懲戒請求者に直接害悪を告知するものではないことは明らかである。

そうすると、弁護士失格ということはできないし、投稿中に「頭おかしい」という表現があることを踏まえても、懲戒請求者への恫喝、脅迫罪、にあたるとはいえない。
また、佐々木に係る懲戒請求に関する法的見解を述べるものに過ぎない以上、弁護士法56条1項所定の懲戒事由にあたらないことも明らか。
北への懲戒請求は、評価的な要素も含めて事実上の根拠を欠くととともに、法律上の根拠をも欠く。

一方、懲戒請求者は通常人としての普通の注意を払えば、北への懲戒請求が、事実上及び法律上の根拠を欠くことを知り得た。

そして、同一書式を用いてることからすると、本件懲戒請求者は、佐々木への懲戒請求に引き続き、北についても懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠があることについて調査、検討をしないまま、何者かの呼びかけに呼応し付和雷同的に懲戒請求をするに至ったものと推認できる。

したがって、北への懲戒請求は、弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らして相当性を欠くと認められるから、本件懲戒請求者は、不法行為責任を負う。

この点、被告Bは、弁護士の懲戒請求が国民の権利であるから違法ではないし、日本国民の基本的人権と社会正義の実現を目指すという弁護士の目的を逸脱した弁護士自治制度の在り方を問うためにしたので、弁護士の業務妨害、名誉棄損を目的としてない旨主張する。

しかし、前記指摘したとおり、弁護士法58条1項は、懲戒請求者に対して恣意的な請求を許容したり、広く免責を与えたりする趣旨の規定ではなく、同項に基づく請求をする者は、懲戒請求を受ける対象者の利益が不当に侵害されることがないように、相当な根拠を調査、検討すべき義務を負う。

また、仮に懲戒請求者の懲戒目的が弁護士の業務妨害や名誉棄損を目的としてなかったとしても、同義務が援助されるものではない。

また、被告Bは、弁護士会に行った懲戒請求に対し、懲戒請求者を提訴するとい報復行為を行うことが脅迫行為にあたり、その際に懲戒請求者の個人情報を違法に取り扱ったことが弁護士という司法に携わる特権を有する職務を執り行う立場の者の行為として著しく不適切である旨主張する。

しかし、同主張に係るような事実は、本件各懲戒請求が不法行為にあたると前記判断を左右するものではないし、仮に同主張が本件訴え提起が訴権の濫用との趣旨のものであったとしても、本件訴え提起が脅迫行為又は違法な個人情報取り扱いに該当し、訴権の濫用であるなどと認めることはできない。

選定者Cは、本件声明が東弁会長から発出された以上、会員がこれに拘束されると考えるのは至極当然である旨主張し、選定者Dは、同会に所属する以上、組織の声明に則って活動しており、反対の声を挙げてないことが弁護士職務基本規程1条に明確に違反している旨主張する。

しかし、本件声明が東弁会長名で発出されたものであるからといって、これが会員を拘束する根拠は見当たらないし、反対の声を挙げないことが弁護士職務基本規程に違反しているということもできない。

また、選定者Eは、弁護士会が本件各懲戒請求を受理して諮問委員会に諮っているのであって、本件各懲戒請求は不当なものとして扱われてない旨主張する。
しかし、弁護士会は懲戒請求があったときは手続きに付さねばならないので、それが不当なものとして扱われていないことにはならない。

◆争点2 損害
懲戒請求を受けたという事実が第三者に明らかになるだけで、弁護士は業務上の信用、社会的信用等に悪影響が及びうるという不利益を被る上、懲戒請求に対する手続負担等に鑑みれば、原告らは、個々の懲戒請求を受けるごとに相応の精神的苦痛を被ったったものと認めることができる。

そして、本件懲戒請求の違法性の程度等本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると、本件各懲戒請求が同一のものであり、懲戒請求に基づく所定の手続きにおける弁明等の負担も画一的な対応が可能であることにより軽減され得ることを踏まえても、

各原告が被った精神的苦痛を慰藉するための慰謝料は、原告1名、懲戒請求1件につき、それぞれ30万円とするのが相当である。

原告らが弁護士であることを考慮しても、本件事案の内容、審理の経過、認容額等に照らせば、各原告に生じた弁護士費用のうち、原告1名、懲戒請求者1名につきそれぞれ3万円を相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

以上によって、主文の通り判決する。

<感想>
被告らの主張にも1つ1つ応答し、また、不法行為の認定についてもきめ細かに判断している判決でした。特に、同一書式によっての懲戒請求が付和雷同的なものと看破し、各々がその行為の意味を考えてないだろうと指摘したのは素晴らしいと思いました。

以上
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