船戸優里

 ◇「報復されるのが怖くて…」 夫の「強固な心理的支配」訴え

 《東京都目黒区(東が丘一丁目14-3サンハイム好2階)で昨年3月、船戸結愛(ゆあ)ちゃん=当時(5)=が両親から虐待を受けて死亡したとされる事件で、保護責任者遺棄致死罪に問われた母親の船戸優里(ゆり)被告(27)の裁判員裁判の初公判が3日、東京地裁(守下実裁判長)で始まった》

 《優里被告は夫の船戸雄大(ゆうだい)被告(34)=同罪などで起訴=とともに昨年6月に逮捕された。現場の目黒区の自宅アパートからは、覚え立てのひらがなで「あしたはもっともっと できるようにするから」「もうおねがい ゆるして ゆるしてください」などと必死に訴える結愛ちゃんのノートが見つかっている。事件は、親による子供への体罰禁止や児童相談所の体制強化など法改正のきっかけとなった。雄大被告の初公判は10月1日に開かれる》

 《この日は一般傍聴席18席に対し、352人の傍聴希望者が集まった》

 《午前10時前、裁判長の合図で優里被告が入廷。黒のパンツスーツ姿で、逮捕時に長かった髪はあご下ほどに切りそろえられていた。裁判員らも入廷。裁判長が促し、優里被告が証言台の前に立った》

 裁判長「名前はなんと言いますか」

 優里被告「……」

 《優里被告の肩が小さく上下し、細かくはなをすする音が響く。裁判員がその様子を見つめる》

 裁判長「落ち着いてから、息整えてから答えようね」

 《言葉が出ず手を前に組んだまま立ちすくむ優里被告。涙を流し、呼吸が速くなっていく。女性弁護人が近寄って肩を抱き、背中をさする》

 裁判長「緊張が高まっているみたいだね。座りますか」

 《首を横に振り、立って続ける意思を示す優里被告。裁判長の「慌てなくていい」という言葉の後に、聞こえるか聞こえないかほどの声を絞り出した》

 優里被告「船戸優里です」

 《ここまで約3分間。極度の緊張が伺える。ここで裁判長が優里被告を着席させ、住所などを確認。検察官の起訴状朗読に移る》

 《起訴状などによると、優里被告は昨年1月下旬ごろから結愛ちゃんに十分な食事を与えず、父親の雄大被告による暴行も放置。結愛ちゃんが衰弱していたことを認識しながら、虐待の発覚を恐れて医師の診察を受けさせず、3月2日に低栄養と免疫力低下で引き起こされた肺炎による敗血症で死亡させたとしている》

 裁判長「検察官が読み上げた犯罪事実について違うところはありますか」

 《優里被告がゆっくり立ち上がり、声を詰まらせながら答え始めた》

 優里被告「事実はさっきと間違いありません。それで、事実はおおむね認めるんですけど、少しだけ違うところがあります。結愛の……結愛の………。殴られたのは知らなかったです。通報しなかったのは、雄大が逮捕されたら、結愛も私も……」

 《優里被告の声はかすれ、ところどころ判然としない》

 優里被告「報復されるのが怖くて、それで私が通報できなかったのです」

 《弁護人が言葉を続ける》

 弁護人「保護責任者遺棄致死罪の成立は争わない。ただ雄大さんが結愛さんに暴行していたのは知らず、見ていなかった。特に2月下旬の暴行については知らなかった。医療措置をとらなかったのは雄大さんの報復が怖かったから。弁護人は、強固な心理的支配下にあったことを主張する予定です」

 《雄大被告の心理的支配下にあったとされる優里被告。家庭の中で何があったのだろうか。公判は検察側の冒頭陳述に移る》

母親初公判詳報(1) 
母親初公判詳報(2) 
母親初公判詳報(3) 
母親初公判詳報(4)