千里馬(チョンリマ) 北朝鮮が保有する秘密ウラン濃縮施設が、平壌郊外に位置する平安南道千里馬(ピョンアンナムドチョンリマ)南西部の江西(カンソ)郡にある可能性が高いと米オンライン誌「ディプロマット」が13日報じた。

北朝鮮などの核活動に詳しい米ジェームズ・マーティン不拡散研究センターのジェフリー・ルイス博士や米情報機関の分析をもとに伝えた。

 この秘密施設は今春、米シンクタンク、科学国際安全保障研究所(ISIS)のオルブライト所長が、脱北者や米政府当局の情報などをもとに「降仙(カンソン)」と呼ばれる場所にあると指摘、寧辺(ニョンビョン)にある濃縮施設の2倍の能力を保有するとしていたが、場所は不明だった。

 ルイス博士は衛星写真のほか、金正日(キム・ジョンイル)朝鮮労働党総書記や金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の行動記録を分析。2002年から建設が始まった大同江右岸の千里馬(チョンリマ)にある建物が、濃縮施設の可能性が高いことを突き止めた。

 建物は幅50メートル、長さ110メートルの平屋建て。周辺の建物の屋上には冬期間、積雪が観測されるのに、この建物だけは積雪がなく、建物内に熱があることをうかがわせる。北朝鮮が核拡散防止条約(NPT)からの脱退を宣言した03年初頭から使用され始めた可能性が高い。

ウラン濃縮施設の概要図
寧辺(ニョンビョン)のウラン濃縮施設

 重要な軍事施設には必ずある壁画や記念碑(オベリスク)の存在や、科学者や技術者が常駐するとみられる住居棟もある。

 千里馬は戦前から鉄鋼業が盛んで、金親子も何度も視察に訪れているが、ルイス博士によると、この建物だけは訪問記録が無い。軍事的な最重要施設であるため、あえて記録を公表していない可能性がある。

 ディプロマット誌は、千里馬が戦前は「カンソン」と呼ばれており、米情報機関は現在もその名前を使用していると説明している。

千里馬製鋼連合企業所の施設を視察する金正日
千里馬製鋼連合企業所を視察する金正日

 北朝鮮は寧辺にウラン濃縮用の遠心分離機2000台を配置した濃縮施設を10年11月までに整備して米科学者に公開した。だが、それに先立って建設したとみられる濃縮施設については、現在も存在を明らかにしていない状況にある。
【ワシントン会川晴之】
毎日新聞 7/15(日)

■降仙(カンソン)とは
ピョンヤン (平壌) 市の南西 20kmにあり,ナンポ (南浦) 港にいたる道路にのぞむ。
カンソン製鋼連合企業所があり,北朝鮮有数の製鉄工業地帯となっている。
1957年チョンリマ (千里馬) 運動はこの地の工場から始められた。
地名は仙女が清泉に舞降りたとの伝説にちなむ。

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