湖東記念病院再審確定
2019年12月(2019年3月、西山さんに「無罪」判決)

 ◇刑事に恋をし、誘導されるままに嘘の供述で服役 汚名をそそぎたい

 「うその自白」をもとに、24歳で逮捕されてから15年余り。西山美香さん(40)=滋賀県彦根市=は3日、再審の初公判を迎える。
 汚名が晴れる瞬間に向け、法廷で証言する練習を重ね、「捜査は正しかったのか。滋賀県警の責任を追及したい」と思いを強めている。無罪が確定的な一方、再審公判は「冤罪」がなぜ作られたかの解明には課題を残す。

 西山さんは、介護が必要な祖母の力になりたいと思い、2002年12月から東近江市の湖東記念病院に勤めた。介護福祉士の資格取得を目指して勉強もしていた。

 勤めて半年後、入院中の男性患者が死亡した。
 西山さんは、業務上過失致死容疑の捜査で滋賀県警の任意の取り調べを受けた。刑事に何度も厳しく詰問され、「人工呼吸器のチューブを外した」とうそを言ってしまった。一転優しくなった刑事に好意を抱いた。そして、言われるままに「自白」していった。

 殺人容疑の逮捕状を見せられ、「家には帰れない」と言われた。まさか逮捕されるとは思っていなかった。深夜の留置場で「早く家に帰して」と叫んだ。

 裁判では、「私は殺していません」と否認し続けた。手錠をかけられた姿を両親に見られることがつらかった。一審で懲役12年の判決を受けた瞬間は、頭が真っ白になり、どうやって法廷から退出したのか記憶がない。血の気の引いた顔でうつむく、傍聴席の父だけを覚えている。そして、刑務所で服役することになった。

 出所後も、苦労が続いた。約30社でアルバイトの面接を受けたが、半年以上決まらなかった。
 面接官に「再審しようとしている人が、サービス業は無理でしょ」と言われた。ようやく地元の工場に採用されたが、定時のチャイム音を聞いたり、会社の電話が鳴ったりすると、「刑務所にいるのかな」と混乱した。PTSDと診断された。

 初公判を控え、井戸謙一弁護団長を相手に、被告人質問の練習を繰り返している。「間違ったことを言ったら大変だから緊張する」。

 法廷に立つのは重圧だが、県警に対し「捜査が正しかったか、はっきり説明すべき」と、責任を追及したい気持ちが強い。

 大好きだった2人の祖母は、最後まで西山さんを心配しながらこの世を去った。無罪判決を得た後に、改めて介護福祉士の資格取得を目指すことを考えている。
京都新聞 2020年2月3日

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2017年9月 西山美香

 ◇殺人罪で服役した元看護助手、無罪確定的の再審公判3日から 

 「冤罪」つくられた経緯解明なるか

 滋賀県東近江市の湖東記念病院で2003年、男性患者の人工呼吸器を外して死亡させたとして殺人罪で懲役12年が確定し、服役した元看護助手西山美香さん(40)の裁判をやり直す再審公判が3日、大津地裁(大西直樹裁判長)で始まる。

 検察側は有罪立証を事実上断念し、西山さんの無罪は確定的となっており、「冤罪」が作られた経緯が解明されるかが注目される。被告側が請求する刑事事件の再審公判は京滋で初めて。

再審開始
「担当刑事に恋をして、つい迎合してしまった」と話す西山美香さん

 西山さんは、男性患者の死亡から1年以上が過ぎた04年7月、「呼吸器のチューブを外した」と殺害を自白して逮捕された。

 公判では「取り調べた刑事に好意を抱き、虚偽の自白をした」として一貫して否認した。
 しかし、05年の一審判決は、職場待遇の不満から病院に恨みを抱き、事故を装って患者を殺害した、と有罪認定し、07年に最高裁で確定した。

 弁護側は10年に再審請求を開始。第2次再審請求で大阪高裁が、患者は自然死が疑われ、自白の信用性も疑義があるなどとして、17年12月に再審開始を決定し、19年3月に最高裁で確定した。翌4月に始まった再審公判に向けた三者協議では、検察側が当初の方針を10月に一転させ、有罪立証を事実上断念する意向を示した。

 滋賀県警の捜査を巡っては、確定審段階から、自白を誘導したり、初公判前に捜査員が接見して「否認しても私の本意ではない」という趣旨の検察官宛ての手紙を書かせたりしたことなど、不当性が指摘された。三者協議開始後は、県警が西山さんに有利な証拠を大津地検に送致していなかった事実も明らかになった。

 再審公判は、3日に冒頭手続きや西山さんの被告人質問、10日に検察側の論告求刑と弁護側の最終弁論を行う。判決は3月31日に言い渡される予定。
 日弁連が支援し、再審公判が開かれた刑事事件は全国で今回以外に17件で、全て無罪が確定している。
京都新聞 2020年2月2日

無罪を訴える 西山美香

 ◇殺人罪で服役した元看護助手、3月31日に無罪判決へ

 「検察は納得いく説明を」

 滋賀県東近江市の湖東記念病院で2003年、男性患者の人工呼吸器を外して死亡させたとして殺人罪で服役後、再審開始が確定した元看護助手西山美香さん(40)の再審公判に向けた最後の三者協議が16日、大津地裁で開かれた。弁護団が会見し、判決が3月31日に言い渡される見通しが強いことを明らかにした。

 弁護団によると、この日までに公判で請求する証拠について大部分の調整を終えた。
 井戸謙一弁護団長は昨年4月から続いた計8回の三者協議を振り返り、証拠開示が一定進んだ点などを評価した一方、「検察が立証を事実上、放棄した経緯が分からず、公益の代表者として納得がいく説明をすべきだ」と強調した。

 公判で被告人質問は約1時間にとどめる予定で、井戸弁護士は「早期の無罪獲得を優先した。無念さはあるが、許された時間の中で問題点をあぶり出したい」と述べた。

 公判は2月3日に始まり、同10日に結審する見通し。検察側は事実上、有罪立証を断念する方針を示しており、西山さんの無罪は確定的になっている。
京都新聞 2020年1月16日


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