厚生労働省がビールロング缶1本のアルコール摂取でも大腸がんの発症リスクが高まるなどとするガイドラインを19日発表したことで、ビール各社が「ストロング系」と呼ばれる低価格で酔いやすい高アルコール酎ハイの販売から撤退する動きが活発化しそうだ。

疾病別の発症リスクと純アルコール量

今年に入りアサヒビールとサッポロビールがアルコール度数8%以上の缶酎ハイの新商品を販売しない方針を示しており、キリンビールも今後のストロング系の販売方針について検討を始めた。サントリーの対応にも注目が集まる。

「安く酔える」を売りに、コスパやタイパを訴求したストロング系酎ハイは2010年前後から需要が拡大してきた。しかし、近年は健康志向の高まりや、飲めるけれど、あえてお酒を飲まない生き方「ソバーキュリアス」の若者への浸透などもあり、ストロング系の市場は徐々に縮小。調査会社インテージによると、20年に約1776億円だった販売額は23年に約1365億円にまで減少した。

市場縮小を踏まえ、アサヒは20年末に79品目あったストロング系商品を、現在は1商品に絞り込んでいる。18年にはストロング系を最大20商品展開していたサッポロも現在販売するのは1商品のみだ。

一方で、サントリーは「―(マイナス)196℃」、キリンは「氷結」のブランドでストロング系で強い販売力を持つ。23年の缶酎ハイやハイボールの国内販売額のうち、度数9%台のストロング系は23.7%を占めており、「そのうちのほとんどをサントリーとキリンの2社が握っている」(ビール大手関係者)とされる。そのため、「この2社は強みのあるストロング系の撤退には慎重姿勢を示している」(同)という。

生活習慣病リスク

アサヒは低アルコール化の流れをビールにも波及させており、昨年10月には主力ブランドの「スーパードライ」で、度数が3.5%(通常の度数は5%)と低い新商品「ドライクリスタル」を発売している。他のビール各社は低アルコールビール市場形成の成否を見極める試金石として、ドライクリスタルの販売動向に注目しているとみられる。ドライクリスタルについて、アサヒは「売れ行きは堅調」と説明している。厚労省が公表したガイドラインを追い風に販売拡大を期待する向きもありそうだ。
産経新聞 2024年2月19日