※今回の大量懲戒請求事件、それに対する弁護士の反撃という流れの源流を辿って行くなかで、どうしても避けて通れないが青林堂という出版社の存在です。

 ゼロ年代初頭にマンガ雑誌『ガロ』が事実上の廃刊に追い込まれてから何年もの間くすぶっていた青林堂の蟹江幹彦代表は、保守・右派路線へと転向することで活路を見出し、ネトウヨ(ネット右翼)ブームの波を取り込み、2010年頃から湧き出した大衆の左翼メディアへの強い反発も相俟って、いまでは保守系の出版に特化した出版社として知られています。
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 保守ブームが広く定着し、いわゆる《ネトウヨ》の社会的認知度が上がる過程で登場したのが、今問題となっている「余命三年時事日記(2012年~)」ブログです。

 ◇急速に先鋭化してきた「余命」氏とは

 余命宣告を受けた(キャラ設定上の)故・初代余命氏(実際は存命で=三代目余命氏)の社会への遺言的な提言として始められたという設定の同ブログは、保守に目覚めた中高年層を中心に支持を広げ、保守系ブログとして一定層の固定読者を獲得するに至っている。 

 そこに目を付けたのがネトウヨ層に金脈を見出した青林堂で、同ブログを書籍化した『余命三年時事日記』はベストセラーとなり、初代余命氏=現三代目余命氏を中心とするプロジェクトチームが“余命三年”シリーズを発行し続けている設定となっている。同シリーズは青林堂のドル箱コンテンツになっていたようです。

 ◇“ブラック企業”として訴えられた青林堂

 上司によるパワハラ問題などで青林堂と係争中なのが元社員の代理人で労組系の顧問をしている某法律事務所で、同事務所の所属弁護士が何らかの過程で余命氏の「懲戒請求対象弁護士リスト」に入れられ、不当懲戒請求されたことが、今回の損害賠償請求に繋がっているというのも問題の根深さを物語っています。

 ◇某地方議員以外はあくまでも静観の構え

 懲戒請求の扇動者と言われている初代=三代目余命氏及び青林堂には、同社から本を出版している保守系の地方議員、国会議員、街宣系右翼活動家などを巻き込んで、左翼弁護士vs保守陣営の全面戦争に持ち込みたいという思惑もあるようですが、実態は一部の極端に右傾化したグループが仕掛けた特定案件がらみの局地戦であって、右派対左派の戦いというほどのものではないと筆者は捉えています。
 余命氏が主張しているような「日本人vs在日朝鮮人の戦い」などでもありません。

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神原元(はじめ)弁護士

 ◇大量懲戒請求で賠償提訴 神原弁護士「差別扇動許さず」 

 全国各地の弁護士会が朝鮮学校への補助金停止に反対する声明を出したことを巡り、複数の弁護士への懲戒請求が大量に出された問題で、神奈川県弁護士会に所属する神原元(はじめ)弁護士らが、不当な請求で業務を妨害され、精神的苦痛を受けたとして、請求者の一部に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたことが26日、分かった。提訴は5月9日付。 

 神原氏は「大量請求は在日朝鮮人への差別扇動が目的のヘイトクライムで、厳しい対処が必要。提訴は『差別に加担するな』というメッセージだ」としている。 
47ニュース 2018/5/26 06:11 

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弁護士に対する懲戒請求の件数

■初代~現三代目「余命」氏=キャラ設定上の呼び名か
初代余命氏(故人)、二代目、三代目(A)氏に続いて名籍を継いだ三代目(B)氏で四代目であるが、なぜか三代目を名乗っている。
現在72歳、一般財団法人「日本再生大和会」の理事を務めた通称せんたく(本名小野誠)氏によると、出身は山形県で高校卒業後パチンコ店従業員や漬物販売業、タクシー運転手、タクシーの労組委員長を経て三代目余命を襲名。襲名の経緯は不明。
尚、この小野誠氏情報は余命氏側が意図的に流したガセ情報であるという説もある。

※現三代目余命氏とユーチューバーせんたくこと小野誠氏との間で、日本再生大和会の寄付金口座と役員報酬の支払いを巡ってのトラブルがあり、互いにリーク合戦を展開している模様。